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昔話33 踏切 作:オオモ [昔話]


「はい、車が来てないことを確認しましょーう!
 右・左・右、ですよー!」

「自転車はスピード出さないようにね。
 信号や曲がり角ではかならず止まるんですよ」

避難訓練とならぶ小学校の一大行事、交通安全教室の一幕である。

年に一度、小学校に地元の警察官が来て、わんぱく坊主どもに
交通安全のなんたるかを教授するのである。

今では、でかいアメリカンバイクを操り、
ゆったりとツーリングを楽しんでいる俺ではあるが、
小学校4年生のその当時は、愛車の3段ギア付き自転車で、
はちゃめちゃに飛ばしていたものだった。

無茶なライディングによるパンクはしょっちゅうだった。
転倒も日常茶飯事、ひざやひじには擦り傷が絶えなかった。

が、のちに児童会役員にまでなる俺だ。みんなの期待を裏切ってはいけない。
当然、交通安全教室では、すさまじいまでの優等生ぶりを発揮し、
先生たちをすっかり安心させていたのだった。

そんな矢先だった、その事件が起こったのは…。

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今もあるのかは不明だが、当時、俺の通う小学校には
自転車に乗るときのお約束」というものがあった。

誰が決めたか知らないが、その中に
自転車での行動範囲というものが定められていた。

 小学校1~2年・・・自宅の周辺
    3~4年・・・町内(半径約1km)
    5~6年・・・市内(半径約10km)

公立の小学校だったため、友達はみんなご近所。
こんなルールの存在、一応知ってはいたがまったく問題なかった。
小学校4年の夏までは…。

そして問題の小4夏休み、自宅から約4km離れた駅の繁華街に、
「おもちゃランド」なる店がオープンしたのだった。

おもちゃランド!!
なんて素敵な響きだろう!!
そこはきっと魅力的なおもちゃの宝庫で、おもしろいものがたくさんあるに違いない!!

夏休みが終わりしばらくして、そこでは当時流行っていたおもちゃの鉄砲の弾
「BB弾」が激安販売している!との噂が流れはじめた。
しかも、デモ用として置いてある最新のファミコンソフト、
スーパーマリオが遊び放題だともいう!

行ってみたいぃっ!!


さっそく俺は、母親にかけあってみた。

「ねーねー、おもちゃランドに連れてってよぉー」

答えはあっけなくNO。
幼心に俺は深くキズついたが、今にして思えば当然かもしれない。
そんなところに連れていったが最後、
あれもこれもとおねだりされるに決まっているのである。
母親にしてみれば、賢明な判断だった。

でも俺はあきらめきれなかった。
なんとしてでも、一度はおもちゃランドに行ってみなければ…

あっ!おれには3段ギア付きの愛車があるじゃないか!
道ならわかるぞ!!

しかし、前述の「お約束」に従うと、当時の俺達が自転車で
おもちゃランドに行くことはルール違反、
すなわち、バレたらひどく怒られるだろうことを意味していた。
そんなことになったら、先生やクラスメイトから絶大の信頼を得ていた俺の評判も、
一瞬にして失墜する。

しかし…
さすがの俺も、BB弾とスーパーマリオの誘惑には勝てなかった。

俺は友達の中から特に口の固い2人を選び出し、誘いをかけてみた。
案の定、彼らは俺の提案にノリノリで賛同し、そして次の日、
さっそく3人でおもちゃランドを目指すことになった。
俺ってワルだなぁ…

しかしバチが当たったのだろうか? その日、事件は起きてしまった。


おもちゃランドでBB弾を購入し、思う存分マリオを堪能した俺たち3人は、
ちょっとルールを破ってここまで来てしまったんだという興奮とドキドキ感を胸に、
バレないように早めに帰路につくことにした。

いつも通り、猛スピードで自転車をこぎだす3人の少年。
そのとき、前方には踏切が見えてきていた。
おれは一番うしろを走っていた。

もうすぐ先頭が踏切にさしかかろうかというその時!

「カーン カーン カーン カーン・・・」

警報機の音とともに、遮断機が降りてきた!!

が、かまわず走りぬけようとする3人!

交通安全教室、まったくの意味ナシ!!

先頭が無事、踏切を通過!

遮断機がゆっくりと、しかし確実に降りてくる!!


2人目が頭を下げ、遮断機をくぐるようにして通過!

それを見た俺は、前を走るあいつの真似をして頭を下げる!!

そして無事通過・・・と、思ったその時だ!!


「ガツーーンッ!!」

「きゃーっ!」

 ・
 ・
 ・


俺の身になにが起こったのが、その時は一瞬わからなかった。
星がいくつがきらめいたのだけは、覚えている。


しばらくして我に返った俺は、倒れていた3段ギア付きを引き起こしながら
何気なく振り返り…

目の前の風景、そして自分の目を疑った!

な、なんとっ!
遮断機が根元からボッキリ折れているではないか!!
そしてまわりはみんな、なぜか俺に注目している!!
そこは駅前。当然人通りも多く、あっという間に人だかりができた。

呆然としている俺。
騒ぎに気付いて戻ってきた2人が声をかける。

友1「おいっ!お前、だいじょーぶかよっ!?」
友2「うわっ、折れてんぞー! やべーんじゃねーかぁ!?」

近くにいたおばちゃんも

「あなたっ、大丈夫なの??」

そうこうするうちに電車は通り過ぎ、遮断機は上がって…

「メリメリメリッ バギバギッ!」

首の皮一枚でつながっていたその遮断機は、上がろうとするその重みに耐えきれず、
見るも無残な姿となって道をふさぎ、ただでさえ混雑しがちな駅前の交通を、
みごとに妨害していた。

そして俺は、その惨劇を見ながら自然と出てきた次のセリフに、我ながら耳を疑った。

・・・に、にげよう。

自転車に飛び乗った俺は、心配して戻ってきてくれた2人には目もくれず
一目散にその場を逃げ出した。

あわててそのあとを追うかわいそうな2人。


あぁ、ここに友情はあったのか…。

俺ってほんとにワルだなぁ。


*********


この事件の直後、猛スピードで逃げ出した俺は、
振りかえることもなく愛車を必死でこぎまくり
なんとか地元まで戻ってきた。

そこでやっと少し落ちつきを取り戻しはじめたと同時に、
俺の頭に激痛が走った!

おそるおそる、頭に手をやってみる…

「イデーーーッ!!」

なんと脳天には、これまで見たこともないくらいの大きなコブができ、
うっすらと血までにじんでいたのだ!

そこへ先ほどの2人が追いついて、声をかける。

友1「おいっ、平気か??」
俺 「ん?うん、なんともないよ。ただしこれは秘密だぜ」
友2「そんなのわかってるよ、当たり前だろっ」

うーん、俺はいい友達を持ったものだ。

おれは必死に痛みをこらえ、平静を装いながらそそくさと家へ帰り、
何事もなかったかのようにふるまった。

しかし、髪の毛で隠れているとはいえ、
いつ頭のコブがばれるかとヒヤヒヤしていた俺は、
なるべく家の人と顔を会わせないようにしつつ、
食事中はつとめて、顔を上向きにキープした。

このコブがばれることは、今日の悪事がすべてばれることを意味する。
俺は必死だった。

 ご承知のとおり人間の顔というのは、下を向くと悲しい表情に映り、
 上を向くと、すましていても笑い顔に見える。

ノーテンキな母親は、俺が必死に努力している、その裏の意味など知るよしもなく、

「なーに、アンタ♪ 今日学校でなにかいいことでもあったの??」

と、来たもんだ!

子の心、親知らず…。


その夜、あまりの痛さにシャンプーできなかったのは言うまでもないが、
あくる朝、俺は誰よりも早起きして、新聞配達のお兄ちゃんを待った。

当然、昨日の事件が新聞にどう掲載されているかを確かめるためである。
優秀な日本の警察のことだ(このときはそう信じていた)、
あっというまに、そぐそこまで捜査の手が伸びているかもしれない…。

ブ~ン… (来た!)

俺はダッシュでお兄ちゃんに駆けより、困惑顔の彼から奪うように新聞を受取った後、
食い入るように新聞を見つめた。

はじめて新聞を隅から隅まで読んだ。

・・・出ていない。(←当然!)


拍子ぬけしたおれは、それでもまだ心配をぬぐいきれず、
その日の放課後、2度目のルール違反を犯し、今度はひとりで問題の踏切に向かうべく
愛車にまたがった。


「犯人は現場へ戻る」

今どき、どんなケチなB級ドラマにも出てこなそうなこのセリフを、
俺はこのとき、素で実行していた。

しかし、昨日の今日だ。
同じ自転車に乗って現場に近づくことの危険は、小4の俺にも理解できた。(←考え過ぎ!)

駅の反対側に自転車を停めた俺は、あたかも地元民のような雰囲気をかもし出しつつ
徒歩で現場へと向かった。


そこにあったのは、いつもとかわらないであろう踏切の風景と、
きれいさっぱり、新品に交換済みの遮断機だった。

これを見た俺は、ホッと安心しつつも、これ以上ここにいるのは危険だと思い、
せっかくここまできたと言うのに、あの「おもちゃランド」には目もくれず、
またもや猛ダッシュで家路についたのだった…。

(なーんだ、あっさりなおってたなぁ。これでひと安心だ。)

そしてその日も、晩ご飯のあいだ中、顔は上向きをキープ。


次の日は、少年野球の練習がある日だ。
で、でも…、コブが痛くて帽子がかぶれない…。
野球は大好き。休みたくはない…。

当然俺は、「帽子忘れちゃいましたぁ」作戦を実行したのだった。

あぁ、俺ってワルだな。



少し前、「踏切事故防止キャンペーン」なんかやってたけど、そのCM映像に出てくるのは
たいてい大型ダンプかなにかが「ガッシャーン」って壊していくもの。

小学生が自転車で頭から突っ込んで「バキッ!」のほうが絵になると、俺はは思うけどなぁ。
すんごく痛い&恥ずかしいんだけど。

っていうか、今どきの遮断機は見たところ合成樹脂でできれるっぽいから、
頭で突っ込んだくらいじゃ折れなそうか。
当時は「竹」にペンキで、黄色と黒のしましまを塗っていたんだよなぁ。

 (えっ!?そんなに昔の話でもないぞ…、念のため)

ちなみに、どんな法に触れるのかは知らないが、道路交通法も器物損壊も、時効は3年。
さすがに、今となってはとっくに時効成立でしょう。

あー、よかった!







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